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小説『座敷童』
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創作
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☆あらすじ
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父母が離婚した沙織は、
母に連れられて、とある町にやって来た。
沙織が小学五年生になった秋の日の事だった。
沙織は、新しい学校に馴染めずに、
一人ぼっちで過ごしていた公園で座敷童と出会うが・・・・・・。
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☆人物設定・配役☆
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☆登場人物 1人~3人(声劇時)☆
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☆1 沙織(さおりー少女時代)
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十二歳。
小学六年生。
少しワガママで寂しがりやで泣き虫な女の子。
母と二人で新聞配達所の寮に住んでいる。
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☆2 お母さん
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三十代。
夫と離婚し、新聞配達員として沙織を養っている。
男勝りな性格で責任感が強い。
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☆3 座敷童(ざしきわらし)
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子供の姿をした妖怪。
十二歳位の少女の姿のまま、永遠に歳をとらない。
長い黒髪が美しい、赤い着物の女の子。
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☆4 沙織(さおりー母親時代)
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二十八歳。
夫と娘の詩織と一緒に座敷童がいる公園の町に戻ってきた。
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☆5 詩織(しおり)
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五歳。
無邪気で人なつっこくて好奇心旺盛でお母さんが大好きな女の子。
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☆6 所長
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五十歳位。
お母さんがつとめている新聞配達所の所長
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☆7 公園ママA
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二十五歳位。
公園で子供と遊んでいるママさん。
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☆8 公園ママB
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二十五歳位。
公園で子供と遊んでいるママさん。
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☆9 優子
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五~六歳位の女の子。
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☆10 恵子
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五~六歳位の女の子。
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☆10+1 ナレーター
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本編では、全ての配役とナレーターを一人でこなします。
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☆配役設定
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☆1人で朗読
本編は小説という特性上、
全ての配役を一人でこなして朗読という形式になってます。
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☆あらすじ
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父母が離婚した沙織は、
母に連れられて、とある町にやって来た。
沙織が小学五年生になった秋の日の事だった。
沙織は、新しい学校に馴染めずに、
一人ぼっちで過ごしていた公園で座敷童と出会うが・・・・・・。
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☆本編
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「中学校なんて行きたくない!」
私はお母さんに向かって言い放った。
そして、
私はお母さんに何か言われる前に
部屋を駆け出す。
タッ。
「沙織! 待ちなさい。こんな時間に何処に行くの!」
お母さんは私の背中に向かって声を放つ。
それでも、
私はお母さんの静止を振り切るように
玄関から走り出す。
「待たない! お母さんなんて大嫌い!!」
私は新聞配達所の寮を飛び出した。
タッ――。
「沙織! 待ちなさい!」
お母さんの声が
私の背後から追いかけてくる。
けれども――
私はお母さんの叫び声を
振り切るように走り続けた。
タッ、タ――
「こんな時間に何処へ行こう・・・・・・」
私は暗闇の中で思い出したように呟いた。
でも――
私の行き先は一つしかない。
座敷童子のいるあの公園だ。
私は暗闇に目を懲らしながら、
あの公園に向かって
闇夜を一目散に走りぬけた。
タッ、タッ、タ――
「私はサヨナラなんかしたくないんだ」
タッ、タッ、タッ、タッ――
「あの赤い着物の座敷童と、
サヨナラなんかできないンだ――」
私は息を切らせながら、
暗い夜の公園へと辿り着いた。
「あっ、座敷童――」
私は夜の公園で足を止めた。
タ――。
赤い着物の座敷童が、
たった一人でブランコに乗っている。
「座敷童――」
私はブランコに向かってゆっくり歩き出す。
だけども、
私はブランコに
辿り着くのを待ちきれずに
途中で言葉を吐いてしまう。
「座敷童。会いたかったよ」
座敷童は
ブランコに揺られたまま、
私に言葉を返してきた。
「沙織ちゃん。お帰り」
「座敷童。ただいま――」
私はいつものように
座敷童と「お帰り」、「ただいま」と
声をかけあう。
「待ってたよ。沙織ちゃん・・・・・・」
(待ってた?)
私は心に浮かんだ疑問をそのまま口にする。
「待ってた・・・・・・って?
座敷童は私が公園に来ることを知ってたの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
座敷童は無言のまま
頷いたようにブランコを上下させた。
「座敷童・・・・・・。
そういえば、あの時も、このブランコで――」
私は座敷童を見つめながら、
座敷童と出会った日の事を思い出していた。
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☆回想
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小学五年生の秋の出来事だった――。
私はお母さんとあの家を出た。
理由は、
父親の度重なる暴力と
浮気と借金だった。
お母さんは
理不尽に耐えかねて
私を連れて家を飛び出した。
そして――
お母さんと私は
縁も所縁もないこの町へと
漂流するように流れ着いたんだ。
でも、社会は甘くない。
女手一つで
子供を抱えて暮らして行くとなると
職種は限られてしまう。
ましてや、
私たちは見知らぬ土地からやって来た
ヨソ者母娘(おやこ)だ。
どの町でも・・・・・・
子連れ女のヨソ者には冷たかった。
だから――
お母さんは
この町に着くなり、
この新聞配達所に飛び込んだんだ。
「従業員募集か・・・・・・」
お母さんは
窓に貼られている
従業員募集の張り紙を見るなり
声を漏らした。
だから――
私は
思わず不安になって
言葉を漏らしてしまう。
「え? お母さん、また応募するの?」
「そう。応募してみる。だって――」
お母さんは
一呼吸置いて
口を開いた。
「だって、
お仕事をしなきゃ暮らしていけないでしょ?」
お母さんは
毅然とした口調で
言い放った。
それでも・・・・・・
私は
不安そうに
言葉を投げる。
「ねぇ? お母さん。また行くの?」
「沙織。行かなきゃどうする――」
「どうせまた惨めな思いをするだけじゃない!」
私は
抑えてた気持ちを吐き出すように
お母さんに対して言葉を投げつける。
「おそば屋さん、ラーメン屋さん、
旅館にホテルもそうだよ・・・・・・
みんな不合格だったじゃない!!」
さっきまでの出来事が
私の瞼(まぶた)に浮かんでは
過ぎ去って行く。
そして――
私は
お母さんをじっと見ながら
抗議をするように言葉を投げつける。
「お母さん。
そこまでする必要あるの?」
こんな惨めな思いしてまで行くこと――」
「どんな惨めな思いをしても働かなきゃ・・・・・・
生きていけないでしょう? 沙織――」
お母さんは
決意を含んだ眼差しで
私を見つめ返した。
だから――
私は思わず
息を飲むように
出かかった言葉を飲み込んだんだ。
「お母さ・・・・・・うん――」
「沙織。ここで決まらなきゃ今夜は野宿だからね」
お母さんは
自分に言い聞かせるように
私に言った。
そして・・・・・・
お母さんは新聞配達所のドアを
ゆっくりと開けた。
「すいません――」
「はい? あぁ・・・・・・奥さん。
朝刊ですか? 夕刊ですか?」
所長さんらしき人が
少し驚いたように声を放った。
そして――
お母さんは
所長さんの態度に
戸惑いを覚えながら言葉を濁す。
「いえ、あの・・・・・・どちらも――」
「あぁ。
どちらもお買い求めになられますか?」
所長さんは、
新聞棚から新聞を取り出していく。
「えーと・・・・・・。
朝刊110円、夕刊50円で、
160円になります」
所長さんは
右手に持った新聞を二部(にぶ)
お母さんに差し出した。
だから、
お母さんは間違いを正すように
口を開いた。
「いえ。新聞を買いに来たんじゃありません」
「え? じゃあ、奥さんは何のご用で?
えーと、ウチの(所長さんの奥さん)にご用ですか?
さっきまで奥でチラシ(新聞の折り込み広告)の・・・・・・」
所長さんは、
奥の部屋をのぞき込んで
奥さんを探す。
だから、
お母さんは意を決したように
所長さんの背中に声を放った。
「いえ。奥さんにご用がある訳でもありません。
私はこちらで働かせて欲しいんです」
「あ、従業員募集の――」
所長さんは
何かに気づいたように
お母さんに向き直った。
すると、
お母さんは背筋をピンと伸ばして
お腹から声を出した。
「はい。秋月と申します。
どうぞよろしくお願い致します」
「と、すると――。
奥さん。そちらのお嬢さんは・・・・・・」
所長さんは
いきなり私に視線を投げた。
その時、
私は戸惑いながら
口ごもってしまった。
「あ、あの、私――」
「所長さん。
この子は私の娘です。沙織と言います」
お母さんは
私の頭を押さえつけるようにして、
所長さんに頭を下げさせた。
そして――
お母さんは
私と一緒に頭を下げがら
所長さんに挨拶をする。
「今日から母娘共々お世話になります」
「え・・・・・・?
は、はい。わかりました。
今日からどうぞよろしく――」
所長さんは
お母さんの気迫に気圧(けお)されたように
私達に会釈をした。
こうして――
お母さんは
この日から新聞配達員として
働くようになった。
私はお母さんと一緒に、
この新聞配達所の寮で
暮らすようになったんだ。
でも・・・・・・
私は
ものすごく
人見知りだったんだ。
だから――
私は転校した学校に
なかなか馴染めずにいた。
私は学校で友達もできないまま、
この知らない街の公園で
一人ぼっちで過ごすようになっていったんだ。
「お母さん、今日も遅いなぁ・・・・・・」
私はその日も
公園のブランコで
ゆらゆらと揺られていた。
お母さんが仕事を終えて
新聞配達所の寮に帰ってくるのを
公園で待っていたんだ。
お腹空いたなぁ・・・・・・」
私は
ブランコに揺れながら、
自分のお腹を手で押さえた。
すると――
あァ・・・・・・
何処からともなく、
あの子守歌が
聞こえてきたんだ。
;
「ねんねんころりよ。おころりよ・・・・・・」
「誰? 誰が歌っているの!」
私は
突然の子守歌を遮るように
大きな声を放った。
「こんな時間に一体誰が――」
私は公園のあちこちに目をやった。
でも――
公園の何処を探しても・・・・・・
「誰もいない――」
夕闇に染まる公園で、
私はいつもと同じ一人ぼっちだ。
(誰? 一体、誰なの――)
私は
怖さと寂しさを掻き消すように
大声で叫んだ。
「何処にいるの!」
何処にも誰もいない――。
だから、
私はありったけの大きな声で叫んだ。
「隠れているなんて卑怯だよ!
さっさと姿を見せて!」
「ここだよ。ここ――」
「え? ここ・・・・・・?」
私は突然放たれた声に視線を投げた。
そこは、
私の隣のブランコだった。
「いつの間に――」
私はいつの間にか
隣のブランコに座っていた
赤い着物の女の子を見て声を漏らしてしまった。
「さっきまで、
誰もいなかったのに・・・・・・」
「さっきから、ずっといたよ――」
おかっぱ頭をした
赤い着物の女の子は
無邪気な笑みを浮かべて
私を見つめた。
(この子は、一体、誰なんだろう・・・・・・)
私は
赤い着物の女の子を見据えながら
思いを巡らせる。
どうして――
(どうして・・・・・・)
私は不思議そうに、
赤い着物の女の子を見つめ返す。
「ねぇ? どうして?」
「え?」
「どうして、
あなたはこんな時間に
一人でブランコになんかに乗っているの?」
座敷童「・・・・・・・・・・・・」
赤い着物の女の子は
何も答えてくれないまま、
私に向かって優しく微笑んだ。
(可愛い。
赤ちゃんが笑うみたいに可愛いよ)
私は
赤い着物の女の子の笑みに
ぱあっと心がときめいた。
(こんなに可愛く笑える子も、
私みたいに・・・・・・
一人ぼっちなのかな?)
私は勇気を出して、
赤い着物の女の子に疑問を投げかけてみた。
「え、えーと・・・・・・あなたは誰?」
「私は座敷童。よろしくね」
;
座敷童と名乗った
赤い着物の女の子は、
私に向かってにっこりと笑った。
「私、沙織って言うんだ・・・・・・」
私は座敷童に話しかけた。
そしたら、
座敷童は笑顔のまま
表情を崩さずに言葉を返してきた。
「沙織ちゃんて言うんだ」
「うん。あのね――」
私は緊張をかき消すように
次々と言葉を紡(つむ)いでいく。
「あのね?
私は近くの新聞配達所の寮に
お母さんと住んでるんだよ」
「・・・・・・・・・・・・」
座敷童は
無言のままブランコを
こぎはじめた。
だから・・・・・・
だから、
私も座敷童と同じように
ブランコをこぎながら
喉の奥につかえていた思いを
吐き出すように口にした。
「ねぇ? 座敷童。
あなたは何処に住んでいるの?」
座敷童の表情が急に曇った。
そして――
座敷童は
伏し目がちに
寂しそうに呟いた。
「私が長い事住んでいたお家が
潰されちゃってね、
この公園ができたんだ」
「え? お家が潰されちゃったの!」
私は思わず声を荒げてしまった。
そして、
座敷童は
途切れそうな言葉を
紡いでいく。
「だから・・・・・・
今は一人でここに住んでるんだよ」
「一人で・・・・・・」
私は驚きのあまり口をつぐむ。
(座敷童って、
こんな所に一人で住んでるの!)
;
ジャングルジム、シーソー、
滑り台にブランコ、ベンチ・・・・・・
この公園には
雨風をしのげる場所なんて、
何処にもなかった。
「こんな所にたった一人で――」
私の口から本音が漏れた。
だから、
私はあわてて口を閉ざして、
心の中に思いを巡らせる。
(座敷童は・・・・・・
座敷童は一人ぼっちで
どうやって暮らしているんだろう?)
私の心に
ふとそんな疑問が
浮かんだ。
(私だって
夜中に一人でおトイレに行くのは
恐いのに・・・・・・)
私の瞼に
新聞配達所の暗い廊下の奥にある
トイレが浮かんで来る。
;
(この子は・・・・・・、
座敷童はこの公園で
一人ぼっちで夜を明かしているんだ)
私は
隣にいる座敷童に
視線を投げた。
そしたら――
理由もなく悲しくなって・・・・・・
私は思わず
目に涙を浮かべてしまったんだ。
「ね、ねぇ・・・・・・」
私の口から言葉が漏れてしまう。
「座敷童は一人で寂しくないの?」
「・・・・・・・・・・・・」
座敷童は黙ったまま、
首を上下に振るように
ブランコを動かし始めた。
だから――
私は
座敷童よりも大きく
ブランコを動かしながら言った。
「ねぇ? 座敷童・・・・・・」
私は
何かを打ち明けるように
思い切って口を開く。
p;
「座敷童。
私と友達になろう。
一人では寂しくても二人なら楽しくなれるよ」
「うん」
座敷童は
空のお月様よりも
明るい笑顔で笑ってくれた。
その日から――
私は
学校から帰ると
真っ直ぐに公園に走ったんだ。
私はランドセルを背負ったまま、
公園のシーソーに乗って飛び跳ねて、
滑り台を滑り降りては駆け上がり、
ジャングルジムの頂上から、
夕焼けを眺めては
月明かりの下でブランコを動かしたんだ。
そんな・・・・・・
そんな
私の側には、
いつも赤い着物の座敷童がいた。
あの日で――
あの日で
私は一人ぼっちを卒業したんだ・・・・・・
(それなのに・・・・・・)
それなのにっ・・・・・・!
「それなのに、それなのに!!
今日でお別れなんて・・・・・・嫌だよ! 座敷童!」
私は
目に涙を滲ませながら、
隣のブランコの座敷童に訴えた。
;
私が背負ったランドセルが
寒さに震える子犬のように
ガタガタと音を立てて震えていた。
「沙織ちゃん。今まで有り難う」
座敷童は
感情を抑えた声色で
私に告げてきた。
「昨日も言ったけど・・・・・・
大人になると、
私は見えなくなるんだよ」
「そんな事・・・・・・
イキナリ言われても
納得なんてできないよ!!」
私は
座敷童に抗議するように
言葉を並べ立てる。
「中学生はまだ子供なんだよ! 座敷童――」
座敷童は
私を諭すように
声をかける。
「沙織ちゃん?
この公園にあった家が畑に囲まれていた頃はね。
女の子は、みんな・・・・・」
座敷童が
言葉に詰まったように
口をつぐむ。
そして――
「沙織ちゃん。女の子はね?」
座敷童は
私に語りかけるように
言葉を継げていく。
「沙織ちゃん位の歳になると、
みんなお嫁入りをしていたんだよ」
座敷童の
真っ直ぐな瞳が
私に訴えかける。
でも――
私は
座敷童の訴えをかき消すように
感情を込めて言う。
「お願い! 座敷童。これからも私と一緒にいて!
私、もうあなたなしじゃ生きていけないの!
お願い! 私を・・・・・・もう一人にしないで!」
私は
肩を震わせながら
座敷童に言った。
「もう――。
もう、一人ぼっちは嫌なんだよ。
座敷童・・・・・・」
あぁ・・・・・・。
一人ぼっちだった
孤独な日々の光景が――。
私の脳裏を
走馬燈のように駆け巡っていく。
抑えきれなくなった涙が、
私の瞳から濁流のように
溢れてくる。
「お願いだよ・・・・・・
ねぇ、座敷童――。
これからも、私の側にいてよ」
私は
顔を涙でくしゃくしゃにしながら、
座敷童に訴えた。
だけども――
座敷童は
穏やかな表情のまま、
私を諭すように告げてきた。
「沙織ちゃん。
私はいつも沙織ちゃんの側にいるよ。
ただね、私が見えなくなるだけだよ」
「え? 私が見えなくなる・・・・・・って?」
「ねんねんころりよ。おころりよ」
座敷童は
ブランコに揺られたまま、
子守歌を歌い出した。
この公園で
座敷童と初めて出会った時に聞こえた
あの子守歌だ。
「私はいつでも沙織ちゃんの側にいるからね・・・・・・」
あァ――――。
座敷童の
清流のように透き通った声が
子守歌の中に消えていく。
「座敷童・・・・・・!」
私は思わず
ブランコから立ち上がった。
そして・・・・・・
私は
無我夢中で
座敷童の姿を探した。
でも――
座敷童の姿は
公園の何処にもなかった。
ただ――
私の
隣の無人のブランコだけが、
誰かが乗っているように
大きく大きく揺れ動いていた。
「座敷童――――――!」
私は
ありったけの大きな声で
座敷童を求めて叫んだ。
しかし――
いくら座敷童を呼び求めても・・・・・・
私の声は
無人の夜の公園の静寂の闇に
吸い込まれるように消えていくだけだった。
これが――
私が座敷童を見た
最後の景色だった。
「ねんねんころりよ。おころりよ」
「詩織? その歌、何処で覚えたの?」
私は
公園のブランコに揺られながら、
娘の詩織に問いかけた。
今日は詩織の誕生日だ。
私の
初めての娘である詩織は、
今日で五歳になったんだ。
詩織は
私の膝の上で
無邪気にはしゃぎながら、
隣のブランコを指差しながら
口を開いた。
「お母さん。この子が歌っているお歌だよ」
私は隣のブランコに目をやった。
何故なら、
私の隣のブランコは
誰もいないのに、
陽炎のようにゆらゆらと揺れているからだ。
「お母さん。この赤い服の子だよ」
詩織は
無人のブランコを指差しながら
口を開く。
「ねぇ? お母さんにも聞こえるでしょう?」
ねんねんころりよ――って」
あァ――――。
「座敷・・・・・・童・・・・・・」
私の胸底から、
あの日の懐かしさが・・・・・・
――今、怒濤のようにあふれ出していく。
(座敷童だ――)
あァ――。
私の目の前が・・・・・・
十数年前のあの公園の景色で
埋め尽くされていく。
私の目の前には何もない。
ただ――
私の隣のブランコが風もないのに、
ゆらゆらと揺れているだけだ。
今の私の心のように――
溢れ出してくる涙のように・・・・・・
あァ――。
ブランコは
風もないのに、
ゆらゆらと揺れているのだ。
「ありがとう・・・・・・」
私は
やっとの事で
精一杯の声を振り絞った。
そして――
娘の詩織は
心配そうに私を見上げてくる。
「お母さん。
どうしたの? ねぇ・・・・・・お母さん?」
「何でもない。
詩織・・・・・・何でもないのよ」
私は揺れ動く心と
それにつられて動揺する詩織を
落ち着かせる。
でも――
いくら心を落ち着かせても・・・・・・
私の隣で
無人のブランコは、
ますます大きく揺れ動く。
公園にいるお母さん達は・・・・・・
私の隣で
揺れ動く無人のブランコを
不思議そうに見つめている。
「ちょっと? あのブランコおかしくない?」
「あのブランコだけが、ナンであんなに揺れてるの?」
お母さん達の騒ぎ声が公園に満ちていく。
だけども――
子供達は
お母さん達に抱かれながら、
ブランコを見つめて無邪気に笑っている。
「こんにちわー。私、優子って言うんだよー」
「私は、恵子ー! ねんねんころりーよ」
あァ――。
子供達は座敷童のように、
無邪気な笑みを浮かべては、
無人のブランコに語りかけている。
「座敷童・・・・・・」
私の口から呟きが漏れた。
そして――
詩織が
私の服を引っ張りながら、
急かすように聞いてくる。
「ねぇねぇ、お母さん?
あの赤い服の子がね・・・・・」
詩織は
隣の無人のブランコを指差しながら
座敷童の声色でこう言った。
「沙織ちゃん。私は――、いつでも沙織ちゃんの側にいたよ」
ずっとずっと・・・・・沙織ちゃんを見守っていたよ――――だって。
ねぇ? お母さん。沙織ちゃんて・・・・・・誰?」
私の目からは
涙が津波のように流れて行っては
止まらなかった。
それでも――
私は言葉を振り絞ろうとする。
「沙織は私の――」
私は
言い出せなかった言葉を
心の中で呟いた。
(私の――――、あなたのお母さんの名前だよ・・・・・・)
「・・・・・・詩織」
「お母さん?」
詩織は私を心配そうにのぞき込む。
(座敷童。私にも家族ができたよ・・・・・・)
私は
姿の見えない座敷童に向かって
声を出さずに語りかけていく。
(こんな私を・・・・・・
心配してくれる家族ができたんだよ――)
「――座敷童」
私の目から
涙と言葉とが同時に
こぼれおちた。
「お母・・・・・・さん?」
詩織が
私の涙に向かって
手を伸ばす。
(心配してくれて・・・・・・)
「ありがとう。詩織――」
私は
詩織の手をしっかりと
握りしめた。
(もう――、一人ぼっちなんかじゃない・・・・・・)
私の心の中で・・・・・・
公園で一人ぼっちだった
あの日の私が口を開く。
「ありがとう。座敷童――」
あァ――――。
無人のブランコは
凧のように、勢いよく空へと舞い上る。
あァ・・・・・・。
無人のブランコが空に舞う。
誰もいないブランコは、
まるで誰かに操られている鯉のぼりのように
空を泳いでいる
(座敷・・・・・・)
「座敷童――」
詩織は私が言いかけた言葉を口ずさんだ。
そして――
あの日の座敷童のように・・・・・・
私達は
赤ちゃんのような笑顔で
口ずさむ。
「ねんねんころりよ」
「おころりよ」
詩織は
この公園で十数年前に出会った
座敷童のように優しく微笑んだ。
あの日の――
座敷童の笑顔で優しく微笑んでいた。
「ねんねんころりよ。おころりよ」
☆おしまい
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自由詩『夏』
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創作
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青い空はパン工場
コッペパンの白い雲
ふわふわホイップクリームさ
パンをこねこね夏の空
ふっくら出来たて
入道雲
夏の風はいい匂い
雲がふわふわ泳いでる
ぶどうパンの雨雲が
雨のシロップ
ひとしぼり
僕は思わず雨宿り
風鈴みたいなドアベルが
からんころんと音立てて
僕の心で弾けていく
風鈴みたいなドアベルが
からんころんと音立てて
僕の心で弾けていく
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創作
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自由詩『夏』
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自由詩『ひとひらの恋』
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創作
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ひとひらの恋
その恋は……
手のひらに舞い降りた
ひとひらの雪のような
恋だった
雪はやがて消えてしまう
だけど……
氷の上に舞う雪は
いつまでも生きていられる
だけども……
私は手を熱くしてしまった
だから……
雪は私の手の中で
熱くなって消えた――
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創作
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いつまでも
手を冷たくしたままだと
恋は誰にも知られることなく
冷たい雪のまま
私の手の中で
眠っていられただろう。
だけども――
私は手を熱くした
私は手のひらの中で、
この雪をぎゅっと
握りしめたんだ
だから――
恋は雪として消えていった
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創作
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でも……
熱くならなければ
雪は恋にはならなかっただろう
君を思う愛しさも
会えない時の切なさも
すれ違いのもどかしさも
恋という感情も
この世界に
生まれなかっただろう
だから――
熱くなったからこそ
このひとひらの雪は恋だと
私にはわかったんだ。
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創作
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世界中の誰よりも
君を愛していたからこそ
この恋は雪となって
消えていったんだ
熱くなったからこそ、
この雪の冷たさが
わかった
私の思いが
叶わなかったことも
わかった
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創作
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雪は……
私の手のひらの中で
この世界に別れを告げるように
雪は消えて行った。
でも……
消えてしまったからこそ、
この思いが
恋だとわかったんだ
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創作
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恋はひとひらの雪だった
君は手のひらに
舞い降りた
私だけの雪だった
そして……
消えたからこそ
残り雪のような
この思いは
雪という
ひとひらの恋だったと
気づいたんだ
雪という
ひとひらの恋だったと
気がついたんだ
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自由詩『ひとひらの恋』
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